「DIVE!!②」(森絵都)

DIVE!!(2) スワンダイブ

DIVE!!(2) スワンダイブ

 野球漫画には「天才ピッチャーが山から下りてくる」というお約束があるそうです。山で石を投げて鳥を落としていた男にピッチャーをさせると、ものすごい球を投げるようになるという。未開の地からすごい男が現れるという展開が燃えるのだろうと思われます。
 この「DIVE!!」では海から天才が現れるます。「海でしか飛ばない幻のダイバー」沖津飛沫。2巻は試合での飛び込みに意味を見いだせない彼が、自分が飛び込む理由を模索する物語です。
 おもしろいのは、彼はあくまで「ライバル」でしかないということです。なにしろ麻木コーチは「ライバルを連れてくる」といって飛沫をつかまえてくるのですから、徹底しています。厳密な役割分担もスポ根のお約束のひとつ。腰に故障を抱えていることも含めて、飛沫は最初から「負けるため」だけに設定されたキャラクターなのです。それが作中でしつこいくらい強調されていることに森絵都の作為を感じます。
 自分が飛び込みをする意味を見いだした飛沫は、麻木コーチからスワンダイブという必殺技を授かります。荒削りな豪快さが魅力の飛沫が、スワンダイブを修得してだれよりも繊細な演技をする。意外性に燃えます。
 2巻では飛沫のほかにも愉快なライバルキャラが登場します。要一が簡単に紹介するだけなのに、どのキャラも読者に強い印象を残します。キャラ萌え小説としての本作のうまさが光っています。ついでなので簡単に紹介しておきます。

松野清孝

 安定した実力を持っているが、華がないそうです。スポ根ものでは一番損な役割を押しつけられそうな位置にいます。

ピンキー山田(山田篤彦)

 リズム感、筋力、柔軟性、プロポーション、すべてにおいて卓越した素質を持つが、精神的に弱く実力を発揮できない男。記録より記憶に残るタイプ。

辻利

 小技を決めて確実にポイントを稼ぐ、堅実なダイバー。要一に言わせれば、セコい選手。

炎のジロー(平山二郎)

 辻とは正反対のタイプの選手。常に大技に挑戦するが、成功することはない。結果、水に強く打たれて体が炎のように真っ赤になります。そこで付けられた異名が「炎のジロー」です。こういうばかばかしい称号がスポ根らしくていいですね。