「アーサー王宮廷物語Ⅲ 最後の戦い」(ひかわ玲子)

最後の戦い―アーサー王宮廷物語〈3〉

最後の戦い―アーサー王宮廷物語〈3〉

 上質の悲劇でした。堪能させてもらいました。
 英雄の中の英雄、王の中の王たるアーサー王も永久に権勢を誇っていられるわけではありません。腹心のランスロットに裏切られ、身を守るエクスカリバーの鞘もうしない、超然と存在する魔法使いの助力も得られなくなる。いかなる英雄でも運命の不条理にあらがうことはできず、ついに最期を迎えることになります。中でも不条理なのは、アーサー王は戦いたくないのに常に戦わざるを得ない状況に陥ってしまうことでしょう。アーサー王とモードレッドの和議の儀式において、不慮の事故のために開戦を余儀なくされる場面などは、もはや悲劇というより喜劇になっています。
 この作品の魅力は高宮利行が巻末で的確に解説しているので引用します。

 このように、主人公の力ではどうにもできない運命の糸にがんじがらめにされた不条理の世界を、ひかわ氏は日本人のもつ「もののあはれ」を意識しながら精魂こめて描ききった。筆致の柔らかさ、心理描写の細やかさや自然描写の美しさも特筆すべきであろう。
 聖杯探求の失敗、明るみに出たランスロットとギネヴィア妃の不義、ランスロットとガウェインの争い、そしてアーサー王宮廷に訪れる黄昏――アーサー王伝説の本流に位置する本書は、その受容史に長く残る作品にちがいない。