「宇宙のみなしご」(森絵都)

宇宙のみなしご

宇宙のみなしご

宇宙のみなしご (フォア文庫)

宇宙のみなしご (フォア文庫)

 先月は森絵都作品が三作も文庫落ちし、もはや文庫落ちしていない作品を探す方が難しくなってきました。これは森絵都デビュー15周年記念のフェアだということですが、もしかしたら直木賞受賞の前祝いというたくらみがあるのかもしれません。
 「宇宙のみなしご」はひそかに屋根の上に登る遊びを繰り返す中学生の物語。森絵都が得意とするベタをネタとして処理する手法が顕著にあらわれている作品です。理解のあった先生は教職を辞めインド(!)に旅立ち、クラスメートは自分が世紀末の大戦で活躍する戦士だという妄想を持っている。メインは屋根の上に登るというわかりやすい通過儀礼。こうやって挙げていくと本当にあきれるくらいベタな小道具であふれています。主人公が屋根に登れない同級生にむかって「いいんだよ、むりしないで。こんなのただの遊びなんだから。のぼりたければのぼればいいし、のぼりたくなければのぼらなきゃいいの。むりしてがんばることじゃないの。なにかをためすとか、乗りこえるとか、そんなんじゃないの」とさとす諧謔精神がたまりません。