「トモ、ぼくは元気です」(香坂直)

トモ、ぼくは元気です

トモ、ぼくは元気です

 昨年講談社児童文学新人賞佳作の「走れ、セナ!」でデビューし、椋鳩十児童文学賞もとった香坂直の第二作です。
 小学6年生の松本和樹は家でやらかしてしまったために、夏休みに大阪の祖父母の家に島流しにされてしまいます。そこで商店街のプライドを書けた「伝統の一戦」に巻き込まれ、なしくずしに選手にされることになります。
 陸上の次は金魚すくい!ということで、前作と同様にベタなスポ根展開になります。ベタで見え透いている点は物足りないですが、きちんとベタを貫いて最後まで飽きさせずに読ませる物語を構築しているのは好感が持てます。
 この物語を一言で説明するなら、傷ついた主人公が異世界での冒険を経て日常に回帰するという王道のストーリーということになるでしょう。和樹を金魚すくいに導く大富三姉妹のキャラもたっており、軽快な関西弁の会話で読者をアナザーワールド大阪に誘う導入はうまいです。香坂直の物語の構成力はすでにかなり高いレベルに達していると思います。
 また、人間に対する洞察の深さも見逃せません。以下のような記述にぞくっとさせられます。

教室って、そういうところだ。みんなが同じ顔をして、だれかひとりをわらう。一瞬にして「みんな」が生まれて、一瞬にして「だれかひとり」が生まれる。「みんな」の側に入って、「だれかひとり」をわらうたび、ぼくの心の底でなにかが、ぞろり、と動く。

 クライマックスでも主人公の暴力衝動を否定も肯定もせずに投げだして、安易なカタルシスを与えてくれません。

だけど、うわべは平和な景色でも、その下には汚いものがあるじゃないか。だったら、そんな平和なんかこわしてしまいたい。ごまかしの平和な景色なんかいらない。

 第二作はプロの作家として書き続けていけるかが試されるので、デビュー作以上に厳しい評価をされるものですが、香坂直は見事にこの課題をクリアしたと思います。成長が楽しみな作家がまた増えました。