「悲しみの時計少女」(谷山浩子)

悲しみの時計少女

悲しみの時計少女

ざいりょうは、ぼくのおねえさんだよ。ぼくのおとうさんが、ぼくのおねえさんをさらってきて、とけいにとじこめて、はとにんげんにしたんだ。だからこれは、ほんとのはとどけいなんだよ(41ページ)

 カバー折り返しの推薦文で綾辻行人が述べているとおり、まさしく「第一級のミステリー」です。
 喫茶店で見知らぬ男に声をかけられた浩子さん。男は浩子さんの元恋人の浩司だと名乗り、現在の恋人の時計少女を紹介します。男は魚のような目をしていて、時計少女の顔は時計の文字盤の形をしていて、ふたりともこの世のものとは思えません。浩子さんは時計少女に誘われ、鎌倉にあるはずの時計屋敷への旅をすることになります。
 たくさんの時計屋敷で浩子さんは時計をめぐる不気味な犯罪に遭遇します。鳩時計に改造された少女達、砂時計に改造された老夫婦。次々と起こる犯罪の幻想性もさることながら、解決編ではさらなるミステリの快楽を味わわせてくれます。
 ミステリの解決編は謎解きによって秩序が回復されることによるカタルシスが与えられるのが基本です。しかし多くの傑作ミステリは、むしろ謎解きによって世界を崩壊させ読者の度肝を抜いてきました。この作品もその例に漏れません。意外な犯人に意外な動機、作品世界に隠された秘密、すべてがぶっこわれています。
 というわけで復刊投票はこちら。