「あした地球がおわる」(後藤みわこ)

あした地球がおわる

あした地球がおわる

 月に隕石が墜落し、そのかけらが地上に降り注いだ近未来のお話。この災害は人類に甚大な被害をもたらしましたが、本当の悲劇はその後に起きました。災害をきっかけに各国でミサイルの撃ち合いが始まり、一日にして人類の文明は滅亡してしまいます。物語は小学校の校舎を舞台に、生き残ったたった4人の子供コウと貴也と夏姫とルミがちいさな希望を得るまでを描いています。
 世界の終末の悲壮感、孤独感がいい具合に感じられる作品です。子供達の手の届く範囲には人の気配が全くなく、ラジオを通してのみ他の人間の生存が確認されます。琵琶湖のラジオ局に取り残された男サトウは、月に関連する曲ばかりを流しました。「月の沙漠」「荒城の月」「おぼろ月夜」「Fly Me to the Moon」。しかし音声のみで子供たちとつながっていたサトウも、リスナーの存在を知ることもなくやがて死んでしまいます。
 この作品の面白いところは、よくも悪くも子供は大人によって生かされているという面を強調しているところです。それも悪い面が特に強調されています。貴也は家族を見捨てて逃げ出した父親を追っていたために奇跡的に助かりました。夏姫は親とのトラブルに悩みに自殺しようと川に飛び込んでいたために皮肉にも生き残りました。子供を追いつめながら結果的に子供を救った親を描いている点に、後藤みわこの問題意識の持ち方がうかがわれます。
 もちろん大人は子供に希望も与えてくれます。その希望は大人のもたらした絶望に比べればあやふやなものですが、崩壊した世界で子供達が一歩前に進むには充分なものでした。
 ついでに。隕石の衝突でハート型に欠けた月は、こんなことを言っているのだと思います。
In other words,I love you!