「青葉学園物語 さよならは半分だけ」(吉本直志郎)

さよならは半分だけ (児童読物傑作集―青葉学園物語)

さよならは半分だけ (児童読物傑作集―青葉学園物語)

青い海にクラゲが漂うような雲が、あっちにぽっかり、こっちにぽっかりと浮かぶ空の下、山すその学園から川土手につづく道を、なつめ寮の少年たちが走っていく。
魚とりのヤスやアミをふりまわし、どの子も木綿のパンツいちまいだ。

「うわあい!」
「いやっほう!ほほほーい!」
「うひひ、ひひひいい!」
てんでに奇声をあげ、はだしの足もとにまるっこい影をおどらせながら、まるで、くさりをひきずって逃げだした犬ころみたいないきおいでかけていく。

 青葉学園物語の第二巻、6年生の森山幸子と三年生の森山真治、新入りふたりを迎えた青葉学園の夏休みの物語です。最初のページからこのテンションですから、楽しい夏休みにならないはずがありません。6年生の和彦はさっそく幸子を好きになってしまい、「幸ちゃんのまえでは、ぜったいに、屁なんかひったりできんぞ」と悲壮な決意をします。
 なつめ寮の男の子たちは「したむき会社」という会社を設立してこの夏一儲けしようと計画します。「したむき会社」とはみんなで地面を見てクズを拾って売り飛ばそうという趣旨の会社です。子供たちはこの会社の設立に先立ち創立祝いをしようということで、学園の倉庫に忍び込み岩国基地の米軍から寄付されたコンビーフの缶詰を盗もうとたくらみます。米軍のものなのでパッケージは英語で書いてありますから、わざわざ英和辞典を準備する用意周到さが笑えます。しかしコンビーフのスペルがわからず、「くそっ、アメリカ人は、ばかたれじゃのう。コはコなのに、なんでまた、Kを使うたり、Cを使おうたりするんじゃ。そんなことをしたら、人に迷惑がかかることぐらいわからんのか。ええい!腹がたつ」と筋違いの暴言を吐きます。結局頭文字にCがつく缶詰を適当に選んできたので、ほとんど「コロンスタラシ」だったという落ちでした。
 このように夏休みは楽しいことだけで、かなしいことなんか何も起こらないはずだったのですが、やがて新入りの兄弟に悲劇が訪れることになります。最後の泣かせどころでタイトルの意味を明かす構成はあざといですがうまい。まんまと泣かされてしまいます。このシリーズは笑いと涙のバランスが絶妙で、大衆文学の模範といってもほめすぎではありません。