「満月の夜 古池で」(板東真砂子)

満月の夜 古池で (偕成社ワンダーランド)

満月の夜 古池で (偕成社ワンダーランド)

満月の夜 古池で (角川文庫)

満月の夜 古池で (角川文庫)

 例の猫騒ぎのときタイムリーにこの作品が文庫化されていたんですね。
 「満月の夜、古池で、俺たちは黒鳥になる」。古池公園でカラスの会話を聞いてしまった透は、それ以来彼はカラスに監視され、「黒鳥親切会」なる怪しげな団体につけねらわれることになります。
 さすがにホラー的な演出は一流です。頼れる人もなくカラスの影におびえる前半部分は怖いです。ただ前半は怖いのに、ワニだのニシキヘビだのが登場する後半はギャグ化しているようにもとれ、ちぐはぐな印象は受けます。しかし後半部分はフリークが暴れ回る祝祭的な高揚感があり、それはそれで楽しめました。
 無力なカラスに変身させられ命をねらわれる状況はもちろん怖いのですが、本当に怖いのは人間だろうがカラスだろうが弱いものは強者に騙され踏みにじられるしかないという、身も蓋もない世界が描かれていることです。児童向けとしてこういう世界を提示する作者の姿勢にはある種の潔さを感じます。