「ありんこ方式」(市川宣子)

ありんこ方式

ありんこ方式

春の野原は、スリルと殺気に満ちている。
長い冬をこえて、だれもかれも腹ぺこなのだ。

 春の野原でとかげとかなへびが「最強のありんこ軍団」がやってくるとうわさをささやいている場面から物語ははじまります。やがてやってきたありんこ軍団は縦横無尽に野原を駆け回り、見事な手際で死体を収集していきます。

わらわら、わらわら、わらわら、ありんこが、鹿の死体にとびおりてくる。あとから、あとから、おわらない。
とびおりたありんこは二手にわかれ、一方は、かしの木の根もとに巣穴を掘りだした。
もう一方は鹿の巨体にむらがって、みるまに皮をはぎ、尾のほうからきっちりと肉を分けていく。まるで雲の影がゆっくりと野原を過ぎるように、鹿ははじから順序よく肉を失い、骨をさらしていた。

 とかげとかなへびは地面の蔵に大量の死体をためこんでいるありを不気味に感じます。しかし8月になると彼らは、最近虫たちが元気なことに気づきます。やがてその理由が、ありがためこんだ死体によって虫の餌になる草花が生い茂っているためであることに思い至ります。
 そして冬がやってきて、生き物たちに死の影が忍び寄ります。そこでありんこ軍団は秘密兵器を繰り出します。
 不気味に黒くうごめくありんこたちは死に神のメタファーなのでしょうか。しかし破壊の神は多くの場合再生の神の側面も併せ持っています。得体のしれないありんこを狂言回しとして厳しくもあたたかみのある野生の世界がダイナミックに描かれています。