- 作者: 藤野恵美,筒井海砂
- 出版社/メーカー: 岩崎書店
- 発売日: 2004/04/05
- メディア: 単行本
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世話をしてくれていたおばあさんが亡くなったため、一人で都会にやってきたねこまたのミィと、特殊な力を持った少女まなかの出会いから始まる冒険物語です。ストーリー展開の妙、キャラ立ち、倫理性の高さ、藤野恵美の才能の片鱗が十分見られる作品です。
妖怪と人間の確執がテーマになると、現実のマイノリティの問題が絡んできますから、主人公側の立ち位置は難しいものになってきます。この作品世界の背景には人間と妖怪の対立のほかに、人間をおそう妖怪とおそわない妖怪の対立がありました。ねこまたのミィは妖怪にさらわれたまなかを助けるために戦うのですが、人間の世界に侵入しようとする妖怪に「きちゃダメなのにゃ……。人間をおそったりしたら、いけないのにゃ。それに、……こっちにきたら……みんにゃ、人間に殺されちゃうから、こないほうがいいにゃ……」と訴えるなど、人間に与しているわけではない微妙なスタンスをとっています。
設定上でおもしろいのは、自分が語った怪談が具現化してしまうまなかの特殊能力です。ないものをあることにしてしまう力に目をつけられ、まなかは妖怪につけねらわれることになります。この能力から人間と妖怪の関係性が見えてくるはずでした。しかし結論めいたものは妖怪ハンターの「人間の中にも『人間は神様が作った』と思っている人々がいる。それと同じように『妖怪は人間が作った』と思っている人々もいます。しかし、けっきょく、人間も妖怪も、どうして存在しているのかは、だれも知らないのではないでしょうか。安易に決めつけてしまうのは、あやうい……。そう思います」というセリフで片付けられてしまいます。決して間違ったことを言っているわけではないのですが、これだけでは読者の解釈に投げすぎています。もっと作者のスタンスを明確にしてもらいたかったです。
これだけの背景を抱えた物語をエンタメとして成り立たせるなら、本来ならシリーズ化して三部作くらいにしなければ処理しきれないと思います。短すぎるために消化不良の感は否めません
しかし今の彼女の活躍を見れば、いまさらデビュー作の些細な瑕疵をあげつらうのはナンセンスです。この作品でやり残したことは同じく妖怪をテーマにした新シリーズ「妖怪サーカス団」できっちりクリアしてくれることでしょう。なんにせよ、彼女が児童文学界で今もっとも注目すべき若手作家であることは間違いありません。