「ピュアフル・アンソロジー 夏休み。」

ピュアフル・アンソロジー 夏休み。 (ピュアフル文庫)

ピュアフル・アンソロジー 夏休み。 (ピュアフル文庫)

 ジャイブ、ピュアフル文庫のアンソロジー第一弾。思春期の痛さが満載で、中二病の見本市みたいな作品集でした。
 石崎洋司は「物語」に対する嫌悪を表明し、石井睦美は思春期に破壊される男女の友情を描き、川島誠はもういい年なのに中二病継続中で、日本の伝統芸私小説に挑戦する自分を気取ってみせる。あさのあつこ作品の主人公は感じなくてもいい罪悪感を楽しんでいるのが痛い。思春期を通り越した性を描いていた前川麻子だけちょっと浮いていました。
 しかし今中二病的心性を描かせて梨屋アリエの右に出る人はいません。梨屋アリエ「夏の階段」の主人公は友達を一人も持たない高校生。「賢いおれは、闇雲に行動するよりも先に結果を頭で考え、その行為の無意味さに気づいてしまう」などなど、発言の端々がすてきに痛々しい少年です。そんな彼がついつい興味を持ってのぼってしまった「純粋階段」で恋を見つけてしまうところから物語は始まります。無意味を芸術として解釈し直したトマソン物件がうまく象徴として利用されています。
 なんやかんや事件を経てすばらしい出会いもありながら、主人公が最後の最後まで斜に構えた姿勢を崩さないのがすがすがしいです。