「おはなしのピースウォーク 空はつながっている」(日本児童文学者協会 編)

空はつながっている (おはなしのピースウォーク)

空はつながっている (おはなしのピースウォーク)

 日本児童文学者協会創立60周年記念出版「おはなしのピースウォーク」の第三弾です。収録作品は以下の通り。

はじめの発言 古田足日
「枯れ木林の子どもたち」大浦絵里
「空はつながっている」濱野京子
「麦ほめに帰ります」一色悦子
「五つの川柳物語」吉橋通夫
「黒い馬車」あまんきみこ
「ぼくらの足音」あさのあつこ
「未来の少年」みおちづる
おわりの発言 長谷川潮

 大浦絵里は枯葉剤によって破壊されたベトナムの惨状を訴えています。背負わなくていい重荷を背負って生きていかざるを得ない子供たちの叫びは真に迫っていました。一色悦子は役立たずの兵士の視点から戦争を見つめています。骨太の歴史ものに定評のある吉橋通夫は、反戦川柳作家鶴彬の川柳をモチーフに物語を紡ぎました。あまんきみこの作品はさすがに文学性が高く、満州で日本人が軍に見捨てられた歴史が現在に接続していることを情感たっぷりに描いています。
 それぞれ興味深い観点で戦争を描いていますが、教育基本法が改悪されて教育が危機をむかえている現状を考えると、子供の日常に寄りそった濱野京子作品とあさのあつこ作品が注目されます。
 濱野京子の「空はつながっている」では、反戦デモに参加する少女が描かれています。誰でも戦争はいやなはずなのに(この前提は疑ってかからなくてはなりませんが)なぜ戦争が起こってしまうのかという難問に、普通の市民と政治の距離感を手がかりとして答えているように感じました。おもしろいテーマなのでぜひこれをふくらませて長編を書いてもらいたいと思います。 
 あさのあつこの「ぼくらの足音」では、学校で指導される軍事教練的な行進が描かれています。行進に参加した今野少年は「頭の中がだんだん空っぽになってくようで、何にも考えなくてもよくて、教えられたとおりに身体を動かすだけでよくて、楽だった」と感じてしまいます。これも現実に起こりつつあることです。教育再生会議で30人31脚を提唱した委員はその効用として「心が百パーセント無になっている」ことをあげています。改悪教育基本法では自発的精神という言葉が削除されています。子供の心をなくすことが教育だと思っている連中が教育を主導しようとしている今の状況は危険です。それでも子供達にはどうか心を失わずに、今野少年のように行進中に「空がきれい」といってみる感性を持ち続けてもらいたいです。
 長谷川潮は「おわりの発言」でこう提言しています。

(日本では)戦争のない時代の今。ふたたび戦争を起こさないためにとりあえず必要なのは、子どもの心を縛り付けようとするものを見抜き、抵抗していくことだと思います。学校におけるわずか二年半の軍国主義教育などによって、大きくなったら特攻隊にはいるのだと決心するほどの軍国少年になったわたしは、今、そういうふうに考えています。

 まったくその通りです。教育基本法はすでに改悪されてしまいました。学校教育法や学習指導要領がどう変えられようとしているのか、今後さらに監視の目を厳しくしていかなくてはなりません。みおちづるが「未来の少年」で描いたことは空振りの予言に終わらせたいものです。教育基本法の改悪は憲法改悪と地続きです。われわれの世代が「そんな憲法は時代に合わないって、よく議論もせずにおまえたちの親が変えたんだ。」と未来の子供達から非難されることがないように祈りたいです。