- 作者: 村山早紀,佐竹美保
- 出版社/メーカー: 童心社
- 発売日: 2002/05
- メディア: 単行本
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ファリードを追いつめる手口が実にいやらしいです。村山早紀は実はかなり意地悪な作家なのかもしれません。仲間のハイルとサウードがいい具合にファリードの劣等感を刺激しています。
ハイルは男らしく頼りになるので、ファリードは常日頃から劣等感を感じていました。ハイルは旅の中で家族と恋人を手に入れます。それに引き替えファリードはあわれ。目前に近づいた旅の終わりは、彼にとってはシェーラとの別れも意味するのです。
パーティーへのサウードの加入もファリードにとどめを刺しました。いままではパーティー中唯一の魔法使いであったのに、現段階では明らかに格の違うサウードが仲間になってしまえば、ますますファリードが居心地が悪くなってしまいます。サウードがファリードを不憫に思い、ひそかに魔法を指導しようと考えているのがなんとも皮肉です。
「ねえ、ファリード、母さんは思うの。男の人はつよくなんかならなくたっていいって。人をおしのけ、ふみつけて、じぶんひとりが幸福になろうという人は、たとえどんな立派な男にみえても、尊敬する必要なんかないのよ。男の人は、つよくなんかなくていい。たかいところを目ざすのじゃなく、道ばたにさいた花の美しさをしって、小鳥の声に耳をすますような、そんな人のほうがとうといの」
「人の生きかたに、男の子も女の子もないの。じぶんが生きたいように立派に生きていけばいいの。そうして、男も女も、いざというときに、大切なだれかを守るための力と知恵と勇気を、それだけもっていればいいのよ。それが、本当のつよさ。ファリードもそんな人になって欲しいの。それが母さんのねがい」
ついにファリードは男らしさという問題に直面することになりました。力に溺れてしまった父親を嫌った母親からこんな教育を受けていたファリードはどんな結論を出すのでしょうか。
さて、どうしてもファリードに目がいってしまいますが、実はこの巻で一番がんばっていたのはミリアムです。どんな時も最悪の事態を想定し自分にできる最善の準備を尽くす。これぞ科学の徒の鑑です。そんなミリアム活躍の回の解説に夏緑を起用するセンスもすばらしいです。