「竜神七子の冒険」(越水利江子)

竜神七子の冒険 (文学の散歩道)

竜神七子の冒険 (文学の散歩道)

 京都に住む貧しい一家の生活を描いたリアリズム作品です。父親は飲んだくれで借金癖のある救いようのない人間で、娘の七子は所属している野球チームの会費を親にねだることもできません。しかし現実の厳しさを暴き立てながらこの作品はふしぎな明るさを持っています。それは、子供の視点から驚きを持ってこの世界を見つめているからだと思います。
 第一話では、七子の一家は「からくりもんもん」に会いにいきます。「だって、きのう、寝るまえにお父さんがいうてたもん。自動車に乗ってよそ見してたら、キョーボーなからくりもんもんの巣につっこんでしもうて、それであやまりにいくんやって。きっと、サファリワールドにいくんや」というのが弟の笑太の説明。実際は当たり屋のやくざに脅迫されているのですが、この言によってなんとも輝かしいイベントに変容しています。
 第二話もまた子供達と不思議な世界の出会いが綴られています。隣人のカンノンのおばちゃんから預かった犬が病気になってしまい、七子と笑太はおばちゃんがチャンバラを見せて働いている夜の五条へたったふたりで出かけることになります。夜の京都は異界というよりもはや魔界で、もちろん子供達だけでうろついていいような所ではありません。ところが七子達は、「五条楽園 竜宮殿」というメモを手がかりに、おばちゃんは竜宮城という遊園地で働いているものと思いこんで出かけてしまいました。
 夜の京都の幻想的なこと。「こんな晩に子どもだけでうろうろしとったら、子盗りにさらわれるえ」と子供をおどす舞妓さんに戦慄させられてしまいます。そして七子たちが窃視したおばちゃんのチャンバラの正体。本当にこの世界は驚きと神秘に満ちています。そうした世界のありように触れさせている点で、この作品はまさに「冒険」を描いているといえましょう。