- 作者: 岡信子,小暮正夫
- 出版社/メーカー: 岩崎書店
- 発売日: 2006/12
- メディア: 単行本
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小学4年生の少女ひなが22ページにわたって大好きなお兄ちゃんについてのろけまくり、お兄ちゃんに甘えまくるだけという大胆なストーリーが展開されています。学校では早く家に帰ってお兄ちゃんと遊びたいと妄想し、家に帰ってからは兄の部屋*1に居座ってまとわりつき、しまいには兄のベッドにもぐり込んでしまいます。だいじょうぶなのか、この娘は……。
「お兄ちゃんよりも、かっこよくて、やさしくて、あたしを大切にしてくれる男子なんかいない。」「お兄ちゃんはほんとうにやさしい。前からやさしかったけど、最近ますますやさしい気がする。だから、あたしもますますお兄ちゃんのことが好きになって、ほかの男子のことなんか目に入らない。」「あたしのお兄ちゃん。あたしだけのお兄ちゃん。そばにいてくれて、うれしい。」。機関銃のように繰り出されるのろけトークに、読んでいる方も脳にお花が咲きそうになってしまいます。
ママはときどき、あたしにきく。
「ひなは、ママとパパ、どっちが好きなの?」
そんなの、くらべられないよ。
あたしは、お兄ちゃんが好き。
しかし藤野恵美は異物を混入することを忘れません。上に引用した部分でほのめかされているように、背景には両親の不仲があります。これがよいアクセントになっていて、本質的に孤独な人間がそれでも他人を求めてしまう悲しさを、強烈な切実さを伴って描き出すことに成功しています。
あと、ブラコンは藤野作品の重要なポイントとして押さえておいた方がいいかもしれません。
ところで藤野恵美は、2月に東京創元社から一般向けのミステリを出す予定になっています。彼女に本格の資質があることは「怪盗ファントム&ダークネス」で証明されているので期待大です。しかし児童文学ファンとしては痛し痒しな面もあって、そっちで評価されて彼女に児童文学を見限られたら大変だという懸念も持たれます。
*1:兄が中学生になってからふたりの部屋が別々になったのがたいそうご不満らしい