- 作者: 松村栄子
- 出版社/メーカー: ジャイブ
- 発売日: 2007/01
- メディア: 文庫
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松村栄子は昨年のセンター試験にボクっ娘小説「僕はかぐや姫」が出題されたことで話題になりました。ジェンダーの問題を好んでテーマにする作家で、生まれたときに性別の決まっていない人々が暮らす惑星を舞台にしたSF「紫の砂漠」なんかがおすすめです。
本書の収録作は4作。「飛ぶ教室」1993年別冊号に掲載された「悩める女王さま」。2005年度の進研ゼミに連載された「Talking アスカ」。「海燕」1996年1月号の「窓」。そして書き下ろしの「高級な人間」です。ずいぶん書かれた時期に幅があり、作者の変容が一望できる興味深い作品集に仕上がっています。以下簡単に各作品の内容に触れます。
「悩める女王さま」
「おーほっほ!」
わたしは四年一組の女王さまだ。テストはいつも一番だし、学級委員長だし、学芸会では主役しかやったことがない。目がくりくりしていてカワイイって、たいていのひとは言う。おまけにサヤカなんていつでも芸能界にデビューできそうな名前だし、ママが暇にまかせてたくさん作る服をとっかえひっかえ着せかえられて登校するから、サヤカちゃんっていいね、すごいね、幸せだねってみーんなにうらやましがられる。
そう言われたら、やっぱり「おーほっほ!」って笑うしかないと思う。
「らしさ」の規定による重圧。主人公のエキセントリックなキャラクターで軽く読める作品になっていますが、テーマはシリアスです。
「Talking アスカ」
高校生の少女アスカが不登校気味の友達に電話でしゃべりまくるというスタイルの小説。このスタイルのため、少女の本音めいたものを軽やかに描写することに成功しています。アスカの視点から語られる同級生や教育実習生、用務員らの姿は実に生き生きとしていて楽しいです。
しかし進研ゼミ連載で東大を蹴る話なんかが許されるとは、ベネッセも意外に懐が深いんですね。どういう方針で作品を選んでいるのか知りたいものです。
「窓」
予備校に通いながら窓の外ばかりを見ている少女の物語。目的を同じくするはずの集団からの逸脱を、一割のさわやかさと九割の痛みを配合して描いている好短編です。
「高級な人間」
小学生時代は人気がありたくさんの男子と婚約をしまっくっていたのに三十を目前にして独身でいる女性が同窓会に出席するお話。20年越しのトラウマは重いですね。