「ステーションの奥の奥」(山口雅也)

ステーションの奥の奥 (ミステリーランド)

ステーションの奥の奥 (ミステリーランド)

 小学6年生の陽太は夏休みの自由研究のために、「デブで鬱でオタク」のダメ人間夜之介叔父さんと調査をすることになります。テーマは大改築を前にした東京駅。ところが東京駅を舞台に連続殺人(密室つき)が発生し、夜之介は不可解な状況で失踪し事件の容疑者扱いされてしまうことになります。陽太はミステリオタクの同級生留美花とともに推理を繰り広げますが、事件は思いもよらぬ方向に進みます。
 児童文学としてみた場合、この作品は現在の子供が置かれている閉塞した状況を皮肉たっぷりに描いているところが面白いです。物語の導入、陽太は「吸血鬼になりたい」という内容の作文を書いてしまったため学校に目をつけられ、カウンセラーの診断を受けるように強制されます。陽太の母親はカウンセラーにかかったことが受験の際傷にならないかとあわてふためきます。そこへ颯爽と登場したのは夜之介叔父。カウンセラーを丸め込むあまり当てにならない秘策を授けてくれます。ちょっとかわった行動をする子供をただちに犯罪者予備軍扱いしようとする教育現場のあほらしさをユーモラスにあぶり出しています。
 夏休みだというのに子供が自由に行動できるのは塾の夏期講習までというタイムリミットをもうけているのも皮肉がきいています。
 ミステリとしてみると、まあ、山口雅也らしいというかなんというか。ある設定があかされてから真相が次々に明らかになる快感がたまりません。