「あさきゆめみし①」(大和和紀/原作 時海結以/文)

あさきゆめみし(1) (講談社青い鳥文庫)

あさきゆめみし(1) (講談社青い鳥文庫)

 日本文学史上もっとも有名な有害図書青い鳥文庫で出ています。やっかいなところから文句が出ないといいのですけど。どうやら「源氏物語」のダイジェストではなく、大和和紀の「あさきゆめみし」のノヴェライズという扱いになっているようです。漫画の「あさきゆめみし」の方は未読なので見当違いの感想を書いていたらご容赦いただきたいと思います。
 まず面白いのは、光源氏がなかなか登場しないことです。冒頭から50ページほど桐壺の更衣と桐壺帝の恋物語が語られています。いきなり光源氏を出して奔放な恋愛遍歴の物語をはじめるのは刺激が強すぎますから、共感を得やすい桐壺の更衣のシンデレラストーリーと悲劇を冒頭に持ってきたのは有効な工夫だと思います。
 源氏物語の世界は青い鳥文庫の読者に見せるには差し障りのあるところが多いので、この作品ではいろんなところを善意に解釈しているようです。光源氏が女性を求める理由は藤壺の女御に対する憧れということで説明していますし、葵の上も実は光源氏のことが好きということにしています。その意味で「空蝉」のエピソードをばっさり捨てたのは妥当です。あれは取り繕いようがありません。
 文章が読みやすく風情のある情景描写もあり、青い鳥文庫の読者に安心して手渡せる本になっていると思います。