「ピトゥスの動物園」(サバスティア・スリバス)

ピトゥスの動物園

ピトゥスの動物園

 バルセロナの町が舞台。難病にかかってしまったピトゥスをスウェーデンの病院に行かせるための資金集めに、町の小学生たちが動物園を作ろうと計画します。集める動物は昆虫、ドブネズミからトラまでさまざまです。
 基本的にこの作品のバルセロナの町は善意にあふれていますが、善意だけで人を動かすことはできません。リーダー役の子供は小学生ながらマネジメント能力に優れていて、集団でひとつの計画を実行する過程が説得力を持って描かれています。たとえば戦力としてあまり期待できない年少の子供をいかにしてモチベーションを失わせずに動かすかという配慮まで見せています。
 子供から物資を徴収するときも気を遣っています。トカゲ用の檻の調達を思案しているとき、ひとりの男の子が画期的なアイディアを考え出しました。女の子が持っていた透明のプラスチック製の筆箱に目をつけ、それに穴を開けてトカゲを展示しようというのです。筆箱を取り上げられた女の子は泣きそうになってしまいますが、リーダー役の子はこう言ってなだめました。

「ねえ、君。おれたちは、これからタネットに相談して、『こんな筆箱を持っている人がいたら、持ってきてください』って、みんなに声をかけようと思うんだ。もし、みんなが持ってくるなら、君もこの筆箱をくれるかい?みんなの協力が必要なんだ。わかるよね?

 基本的にみんなでよいことをしましたというだけの荒唐無稽な話なんですが、こういうところにリアリティが確保されているため、娯楽性がより高まり感情移入しやすい作品になっています。訳者あとがきで紹介されている、この作品が1999年の調査でイタリア・カルターニャ地方の子供に最も支持される作品に選ばれたという話も頷けます。