「銀太捕物帳 お江戸のかぐや姫」(那須正幹)

銀太捕物帳 お江戸のかぐや姫 (文学の泉)

銀太捕物帳 お江戸のかぐや姫 (文学の泉)

 銀太捕物帳の完結編。「お江戸の百太郎」から数えれば那須正幹の捕物帳シリーズは1986年から20年かけて10作書き継がれてきたことになります。お江戸という異世界にさらに犯罪というエッセンスをふりかけて、二重の異世界を体験させてくれた楽しいシリーズでした。

 旧暦の八月といえば、もう秋のまっさかりです。空はどこまでも澄みわたり、はるかにのぞむ富士の霊峰も、五合目ふきんまで雪をかぶっています。(中略)
 秋といえば、江戸の子どもたちがたのしみにしているのがお月見です。現在でも、中秋の名月を観賞する習慣はのこっていますが、江戸時代のお月見は三度もありました。

 情景描写からはじまり、江戸の習俗を紹介して読者を物語世界に誘い込む手腕は、いつものことながら見事です。
 自分は月世界の人間だとのたまうロウソク問屋の娘お秀の失踪から事件は始まります。同じ日にお秀とひそかに交際していた植木屋の繁二郎が殺害されます。 やがて繁二郎と親交のあった万年青マニアの旗本が登場し、事件の背後に貴重な万年青が関わっていることがわかります。中盤からは万年青をネタに濃い趣味の世界が展開されています。
 それにしても最終巻だというのに事件は表面上は迷宮入りという気持ち悪い終わり方をさせるあたり、那須正幹の黒さが出ていてさすがと思わされます。