- 作者: 岩瀬成子,長新太
- 出版社/メーカー: BL出版
- 発売日: 2002/08
- メディア: 単行本
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芽衣はなぜビラはがしという行動に出たのでしょうか。周囲の人間はモリくんがクラスメイトに暴力をふるっていたことなどを噂し、次第にモリくんはそういう事件に巻き込まれるべくして巻き込まれるような子供だったという物語が構築されていきます。そういった周囲の態度に彼女は違和感を持ったのかもしれません。
まえの日、行方不明のモリくんを捜索するのは、いいことだと思ってビラを配って歩いたのに、家に帰ったあとでなんだかモリくんを見捨ててしまったような気持ちになったのだ。ひと晩じゅう、そんな気持ちだった。モリくんがますます特別な子になって、遠くへ流されていくのを手伝ってしまったような、そんな気がした。それはいけないと思ったのだ。(p67)
だからといって、芽衣は本当のモリくんを知っているというような特権を持っているわけではなく、話が進むに従ってモリくんの姿はますますあやふやになっていきます。モリくんの他にも、近所で不審者扱いされ行方不明事件への関与が疑われている老人や、親に黙ってコンビニでバイトを始めた兄、死別した父親など印象的な人物が登場し、芽衣は様々な顔を持つ他人を理解することの困難さに直面します。なんなかんやあって他人と分かり合えたというわかりやすいドラマを採用せず、この作品は徹底して他人のわからなさに向き合っています。そういったところが岩瀬成子が難解だといわれるゆえんです。同時に、彼女の作品で濃密な読書体験が得られる理由でもあります。