「水色のメモ帳 初恋コレクション9」(岡信子・木暮正夫/編)

水色のメモ帳 (初恋コレクション 9)

水色のメモ帳 (初恋コレクション 9)

 初恋コレクション第9巻。ここはやはり岡田なおこの投入に注目しておくべきでしょう。
 岡田なおこ「トライアングル」は知的障害*1を持つ幼なじみ英二を見守る女の子めぶきの物語です。この子は「お嫁さんになる」という空約束でいつも英二にいうことを聞かせてきました。罪深い子です。「わからないね。先のことは」という正論でふたりの行く末がどうなるの結論は見送って終わっているところが誠実です。初恋コレクションにこれを混入した意義は大きいでしょう。
 もうひとつ面白かったのは石井睦美の「運命は電車に乗って」でした。「クローディアの秘密」に影響された女の子が塾のテストをさぼるだけのささやかな家出を決行するお話。石井睦美は正統派の少女小説の魂を受け継いでいる人のようで、ちょっと現実離れした語彙を持つ少女のモノローグが心地よいです。「たいがいにおいて」なんていうちょっと古めかしい言い回しを使うセンスが素晴らしい。些細な出来事をドラマチックに変容させる語りのうまさを堪能できます。

*1:岡田なおこは「障がい」表記を採用している