「涙を売られた少女」(ジェイムス・クリュス)

涙を売られた少女

涙を売られた少女

 タイトルから予想できるとおり、「笑いを売った少年」の姉妹編といえる作品です。例の男爵が今度はネレという歌のうまい少女に目をつけ、彼女を世界的なスターとして売り出そうとします。ビッグマネーに踊らされる人間を描きつつ、人間にとって大切なものは何かを考える思索的な小説です。
 ただ、思索小説としては興味深いのですが、娯楽性という面では「笑いを売った少年」よりだいぶ見劣りがします。「笑いを売った少年」は少年を主人公とした冒険小説として高いエンターテインメント性を持った作品でした。しかし「涙を売られた少女」の主人公は少女ではありませんでした。少女ネレを正しい方向に導こうとする語り手や前作の主人公ティム・ターラーが主体になっています。そのため説教臭さが前面に出てしまい、物語世界に没入しにくかったです。発達しすぎた資本主義の問題を子供に語ろうという情熱は理解できるのですが。