「テラビシアにかける橋」(キャサリン・パターソン)

テラビシアにかける橋 (偕成社文庫)

テラビシアにかける橋 (偕成社文庫)

 1977年にアメリカで刊行されニューベリー賞を受賞した名作が映画化に伴って文庫化されました。
 「女の子ばかり四人のあいだにはさまれているたったひとりの男の子」というお世辞にもうらやましいとはいえない家庭環境で保守的な田舎町に暮らす少年ジェシーが主人公。彼の自慢はかけっこが一番はやいことだけでしたが、レスリーという転校生のおかげでその地位から追われてしまいます。その引き替えに彼はすばらしい世界を得ることになります。
 「自分たちの価値体系を再評価」し、「これまであまりお金と成功のことばっかりしか考えなかったんで、こんどは古い農場を買って、そこをたがやして、なにがたいせつなことか考えることにした」両親とともに引っ越してきたレスリーは田舎の子供には理解しがたい存在で、さっそく学校で浮きまくります。しかしなぜだかジェシーのことを気に入り、ふたりで「テラビシア」という空想の王国をつくりあげ、そこの支配者になって遊びます。ジェシーの側から見れば、レスリーは単調な田舎生活では得られない輝かしいものを与えてくれる存在になります。
 ジェシーの幼いなりのおろかさ、計算高さ、はじらい、あこがれが淡々と繊細に描かれているので非常に感情移入しやすかったです。二人の関係に友情とか恋だとか名前を与えてしまうと本質を見失ってしまいそうです。が、ジェシーにとってレスリーがかけがえのない存在であったことは確かです。それだけに、ねえ。
 しかし文庫化にあたってどうしてあの豪快にネタばらしをしている訳者あとがきを削るという判断ができなかったのか。そのことだけが残念でなりません。