「ボクちゃんの戦場」(奥田継夫)

ボクちゃんの戦場―奥田継夫ベストコレクション

ボクちゃんの戦場―奥田継夫ベストコレクション

 1969年刊行。太平洋戦争末期の集団疎開を題材にした自伝的な作品です。
 主人公は優等生で級長をつとめている源久志。彼はお勉強ができたので学級でそれなりの地位を築いていましたが、食料も乏しい過酷な環境の中で今までの力関係は崩れていきます。ここで牧野という乱暴者の少年が台頭し、源久志は彼のいじめを受けることになります。
 牧野の政治行動は実に巧妙でした。彼は自分のために尽くした子供に「石高」と称して得点を与え、その多寡によって擬似的な階級制度を築き人心を掌握することに成功しました。私製の通貨を配り子供集団を支配する少年を描いた谷崎潤一郎の「小さな王国」を思わせる展開です。子供集団の中で客観的には理解しがたい独自のルールが浸透していくさまが不気味です。
 こうなると遠くのきちくべいえーよりも目先の牧野の方が大問題です。鉄砲持ってドンパチやっているところばかりが戦場ではありません。子供集団の中こそ子供にとっての戦場になりうるのです。