「ザ ジャパニーズ コミックペーパー」(吉橋通夫)

ザ ジャパニーズ コミックペーパー (新日本ジュニア文学館)

ザ ジャパニーズ コミックペーパー (新日本ジュニア文学館)

 明治の初期、家が没落したため舞妓に身をやつしている少女小雪を主人公とする歴史物語です。雪絵は行方不明の兄を捜していましたが、兄が民権運動に関わって当局に狙われているという情報を入手します。兄を捜すうちに小雪社会主義者の米国人ラーネッド博士や「我楽多珍報」なる風刺雑誌を発行している豊前坊天狗と知り合い、次第に民権運動にコミットするようになります。
 面白いのは主人公の立ち位置です。士族の娘としてプライドを持っている小雪は、ラーネッド博士に「士族も平民も平等」と説かれても反感を持ってしまいます。一方で天皇に対しては、「小雪天皇のおかげで生きているわけはない。自分の力で働いて暮らしているのだから、天皇の名前など知らなくても、ちっともかまわない。」というスタンスです。
 物語のほうも読ませます。序盤から雪絵が怪しい車夫に襲われるスリリングな展開で手に汗を握らせせ、終盤は家族の情を絡めてクライマックスは映像的な手法で泣かせる。あざとさは隠せませんが、読ませるための確かな技術は感じられます。エンタメ性をきちんと確保しつつちょっと問題提起をしてくれる、歴史ものとして優れた作品です。