「目をさませトラゴロウ」(小沢正)

目をさませトラゴロウ (新・名作の愛蔵版)

目をさませトラゴロウ (新・名作の愛蔵版)

 1965年刊。山のたけやぶに住む子供のトラ、トラノ・トラゴロウを主人公とする短編集。トラゴロウはおのれの食欲のみに従って生きるキャラクターで、作中ではとにかく獲物を捕らえて食らう場面が目立ちます。そのため原初的なエネルギーが感じられるインパクトの強い幼年童話になっています。
 表題作「目をさませトラゴロウ」はトラゴロウの誕生日の物語。トラゴロウはウサギに、自分が森のはずれのくりの木の下で寝ていることを教えられます。そして、もうすぐ猟師がやってきて連れて行かれてしまうとおどかされます。

「でもさ、そうだとしたら どうして ぼくは いま ここにいるんだろ」
「それは あんたが のんきだから、 くりの木の下で ねているのをわすれてかえってきちゃったんじゃないか」

 トラゴロウはさっそく森のはずれに駆けつけますが、寝ているトラゴロウはいくら揺すっても目を覚ましません。森のみんなで「トラゴロウの目をさますうた」をうたってもだめ。トラゴロウは目を覚ます薬を処方してもらうためにまちのおいしゃさんに走ることになります。
 ある程度本を読むようになると、この話は「そこつ長屋」と「鏡の国のアリス」なんだなということはわかるようになりますが、ネタが割れたからといってこのおもしろさが損なわれるわけではありません。
 動物たちが「まちがかわる日のうた」を歌い上げるラストが爽快です。