「あかね色の風/ラブ・レター」(あさのあつこ)

あかね色の風/ラブ・レター (幻冬舎文庫)

あかね色の風/ラブ・レター (幻冬舎文庫)

 幻冬舎文庫でこれが出るとは意外です。今ならあさのあつこの名前さえついていればなんでも売れると踏んだか。イラストも佐藤真紀子にして、「バッテリー」ファンの目を引くように計算されていますね。なんにしてもこの地味目の佳作が再び書店の棚に並べられるのはめでたいことです。
 「あかね色の風」は北川遠子と転校生の井岡千絵、少女ふたりの友情以前のあわい交流の物語です。千絵が引っ越して来た日、遠子は母親から千絵は「かわいそうな子」だから仲よくしてあげるように言い含められます。でも遠子は「同情していると思われるのは、いや」という理由から積極的に千絵と関わろうとはしません。千絵はあっけなく学校になじみますが、遠子は自分からアプローチしないので、学校での二人は疎遠でした。でも何かと縁があって、遠子は千絵が化石オタクであることを知り、山歩きにつきあったりするようになります。
 ふたりの距離感が絶妙です。ふたりが最後までお互いを名字にさん付けで呼び合っているところに抑制がきいていていい。三人称の地の文ではふたりとも下の名前で呼ばれているので、よけいに距離感が演出されています。
 遠子は挫折したスポーツ少女ですが、何事もぐじぐじ深く考えすぎてしまうタイプで、その思考の過程には共感させられることが多かったです。千絵に興味があってもなにかと思いなやんでしまい、積極的に関わることをしません。その姿はまるで片思いをしているようで、もどかしくて思わず背中を蹴り飛ばしたくなってしまいます。そう、あさのあつこはBLだけでなく百合もいけるのです。冗談はともかく、あさのあつこは女の子同士の微妙な関係を描くのが達者な作家です。ですから、少年に過度な幻想を抱くのはほどほどにしてもらって、こういうのをもっと書いてもらいたいものです。
 「ラブレター」は隣の席の男子に手紙を出そうとする少女の物語。担任の先生は国語の授業では手紙は素晴らしいものだと説きますが、実際に女子が手紙のやりとりをすることにはいい顔をしません。こうした大人の二枚舌に子供がささやかに抵抗していく様子がさわやかに描かれています。
ラブ・レター (風の文学館)

ラブ・レター (風の文学館)