「ぼくらの妖怪封じ」(香西美保)

ぼくらの妖怪封じ

ぼくらの妖怪封じ

 第5回ジュニア冒険小説大賞受賞作。妖怪退治の伝説が残る由丹羽には、街のあちこちに妖怪封じの石が置かれていました。妖怪退治屋の子孫のひろゆきは、その石が消えていることに気付き、妖怪退治屋の協力者だった巫女の子孫の美依子とともに調査を開始します。
 序盤は作者の姿勢にちょっとした疑念を抱きながら読み進めていきました。巫女少女がやたらと好戦的で、争いごとが起こるのを楽しみにしているようなふしが見受けられたからです。が、中盤のどんでん返しでそれは作者の詐術であったことがわかります。妖怪退治屋が実は人間から妖怪を守っている妖怪守りであったことを明かし、見事に物語を反転させます。
 そして、妖怪の方の問題は置いておいて、ぬるめの謎解き要素を絡めつつ、卑小な人間の妄想的な犯罪の物語に移行する。ファンタジーに転ばず、かといってミステリにも転びきらず、どっちつかずのあやういところで奇妙な味わいを出しています。重大な証拠品を男には突破できない結界に隠すところなど、力の抜きどころがうまい。
 ただし、妖怪の力を封じることで妖怪を人間社会にとけ込ませようという妖怪守りの思想はいただけません。これは被差別者は出自を隠しておとなしくしていろという、一時しのぎの解決策でしかありません。なにかしら根本的な解決の道筋を提示できなかったものでしょうか。