「魔の四角形」(武宮閣之)

魔の四角形―見知らぬ町へ (ぶんけい創作児童文学館)

魔の四角形―見知らぬ町へ (ぶんけい創作児童文学館)

 タツオの住む弥生町には、運河や鉄道に囲まれた「魔の四角形」と呼ばれる区画がありました。その区画は建物が入り組んでいて迷子になりやすく、子供にとってはちょっとした冒険心を満たしてくれるスポットになっていました。いくら入り組んでいるといっても四辺のどこかに行き着けば帰り道はわかるので、一応安全は確保されていた……はずだったのですが。
 ある日タツオとヒロシは、「魔の四角形」の中で今まで見たことのない公園を発見しました。そこには下から上に滑り上がる滑り台や、人ではなく世界の方を回転させる鉄棒など、奇妙な遊具が並んでいました。ふたりはこの遊び場の謎を探っていくことになります。
 「魔の四角形」は不可思議な世界ですが、その不可思議さの裏にはある種の合理性があり、子供達は楽しみながらそこから法則性を見つけ出していきます。こうして子供の探求心に的確に応えているところがこの作品の魅力です。
 ふたりはいったん「魔の四角形」から日常に帰還し、今度は多くの子供を引き連れて再びこの遊び場を探します。ところが案の定二度目の探索では不思議な遊び場にたどり着くことはできませんでした。並みの作家であれば一回限りの幻ということにしてここで余韻を残して終わらせるところですが、この作品はそうなりませんでした。視点人物のタツオのいないところでヒロシだけを不思議な遊び場に迷い込ませ、適切な手順を踏めば何度でもそこへ行けるのだという可能性を持たせて幕を下ろしました。これもまたおもしろい。
 本作は第1回ぶんけい創作児童文学賞受賞作で、著者のデビュー作ということになりますが、現時点ではこれが最初で最後の単行本になっています。大変もったいないことです。