「白狐魔記 洛中の火」(斉藤洋)

洛中の火 (白狐魔記 3)

洛中の火 (白狐魔記 3)

 「白狐魔記」第三巻。前作から51年後の南北朝時代を舞台に、白狐魔丸が戦乱の世を見つめる物語が展開されます。天皇家大覚寺統持明院統に分裂した複雑な時代ですが、白狐魔丸はいとも簡単に「兄弟げんか」とまとめてくれました。
 この巻では前巻で白狐魔丸と知り合った狐の雅姫が大活躍します。雅姫はなき夫北条時輔の面影を持つ北条仲時に肩入れしていましたが、仲時は足利との戦いに敗れ自害してしまいます。雅姫は戦乱を導いた後醍醐天皇に復讐するため、側室の阿野廉子にとりついきます。
 狐が祟るという日本の怪談としてはオーソドックスな展開になりますが、復讐に狂う雅姫と観察者の白狐魔丸を対峙させることで、戦争がもたらす悲しみの切実さが演出されています。
 白狐魔丸がライフワークとして探求している人がいくさをする理由も抽象的になり、ますます深められています。今回白狐魔丸が対話した楠木正成が戦う理由は領地のためではありませんでした。帝の命令に逆らえないから、いやいや戦に加わったというのです。「帝には、ふしぎな力がおありになる。わたしは帝の御前に出ると、なにを命じられても、首を横に振れなくなるのだ……。」と涙を流しながら打ち明ける楠木正成を描いてみせるところなど、斉藤洋はただ者ではないと感じさせてくれます。