「鏡の中のアンジェリカ」(フランチェスコ・コスタ)

鏡の中のアンジェリカ (文研じゅべにーる)

鏡の中のアンジェリカ (文研じゅべにーる)

 夏休みを別居中の父親と過ごすため海辺の町にやってきたジャコモ。彼は父親や父親の新しい恋人とその娘、母親らに囲まれて誕生日を祝われますが、その誕生パーティーで事件は起きました。鏡にジャコモの姿が映らなくなり、かわりに見知らぬ少女の姿が映るようになったのです。鏡に映る少女は何者なのか、ジャコモは父親の恋人の娘のイレーヌとともに謎を探ることになります。
 この本では、子供の心の傷に配慮することが実は子供を追いつめているかもしれないという、興味深い問題提起がなされています。ジャコモの周囲の大人は、彼が両親の別居により「心の傷」を負っていないか過剰に気を遣います。しかし子供もバカではありません。自分がどんな振る舞いをしたら大人が心配するかを知っており、大人を心配させないためにそうした振る舞いをしないように気を遣います。

どんなにきみがうらやましいか、わかるかい。少なくとも、たえずきみに目を光らせている人なんていないものね。それに、「とても元気だ。」とか、「心の傷はなおった。」とか、「すてられたあわれな子どもだなんて感じていない。」などと、いつも示さなきゃならないなんて、きみには考えられないことだろう?
(p13−14)

ぼくたち子どもは、両親にひどいショックをあたえないように、いつもえみをうかべ、すべてを引きさいてしまいたいと思うときでさえ、けっして声を荒げたり(原文ママ)しないようにがんばっている。
(p17)

 こうして、子供の心の傷を心配することによって子供の自然な感情の表出が抑圧されるという、困った現象が発生する様子を暴き立てています。