「おばけのおーちゃん」(市川宣子)

おばけのおーちゃん (福音館創作童話シリーズ)

おばけのおーちゃん (福音館創作童話シリーズ)

 失業して住んでいたアパートを追い出され、ぼろ屋に引っ越してきた青年が主人公。その家の家賃が法外に安かったのはおばけが出るためで、青年はさっそくおばけに遭遇することになります。
 このおばけの生態がユニークでおもしろい。おばけは風に弱く、ちょっと風が吹くとすぐに吹き飛ばされてしまいます。おばけ退治のおしょうさんが巨大なうちわを持って現れる図は笑えます。さらにおばけたちは秋になると渡り鳥のように木枯らしに乗って南の国に渡りをする習性も持っています。
 おばけの食べ物は人間の悲鳴で、人間をおどかして悲鳴を食べるたびに大きくなっていきます。ところが青年が出会ったおばけのおーちゃんはとんだ臆病者で、いままで人間をおどかしたことが一度もなく、体は最小サイズのままでした。青年はおーちゃんがかわいそうになって、家に泊まりに来た不動産屋をおどかせるようにお膳立てをしてあげますが、おーちゃんはこんなことをぬかしやがります。

「だからあ、トイレにでようと思ったけどお……」
「くさいしい、夜もでようと思ったけどお、蚊帳を通りぬけるのはめんどうだしい。ごはん食べてるときはあ、おいしそうだしい……」(p29)

 臆病者の上にやる気も一切無し。とんでもないやつですが、これが不思議とかわいくて、青年は際限なくおーちゃんを甘やかしてしまいます。人間とおばけのあたたかくも愉快な交流を季節のうつろいを感じさせながら描いている良作。親子で楽しむのにちょうどいい作品です。