「カワセミの森で」(芦原すなお)

カワセミの森で (ミステリーYA!)

カワセミの森で (ミステリーYA!)

 「理論社ミステリーYA!」第三回配本。現時点ではこのレーベルで最も突き抜けた作品だと言い切ってかまわないでしょう。
 まず主人公の造型が面白い。私立高校に通う桑山ミラはポオをこよなく愛する文学少女。陸上部員という一面も持っていますが、彼女が陸上をはじめた動機はランナーズハイを経験したいというあぶないものでした。なにより印象深いのは彼女の語り口が親父じみていることです。芦原すなおは高校生女子をリアルに描こうなどとは微塵も考えていません。だからこそ、ミラは疑いようもなく少女なのです。
 ミラはお嬢様な転校生サギリにまとわりつかれながら、ゆるい学園生活を送っていました。前半はいつになったら事件が起こるんだろうとやきもきしつつ、ミラのテンポのずれた語りを楽しんでいればOKです。
 そして夏休み、ミラはサギリに別荘に招かれます。舞台を別荘に移してからはそれまでとは雰囲気が変わり、ハイペースで連続殺人が起こります。物語はどんどん加速し、やがて宙返りを見せてくれます。
 謎解きのシーンで読者はこの事件に隠されていた謎があまりに絢爛豪華であったことを知り、圧倒されることになります。ポオを愛する者、ミステリを愛する者なら必ず琴線に触れるものがあるはずです。