「スパイ少女ドーン・バックル」(アンナ・デイル)

スパイ少女ドーン・バックル (ハリネズミの本箱)

スパイ少女ドーン・バックル (ハリネズミの本箱)

 存在感がないことが悩みの少女ドーンがスパイ組織にスカウトされ活躍するお話です。目立たないからスパイに向いている。意外な才能の生かし方を与えられたドーンは訓練を受けスパイとして成長していきます。サンタクロースが赤鼻のトナカイをスカウトしたように、ほめているふりをしてけなす洗練されたいやがらせです。
 エンタメとしては失敗作です。問題は主人公の特性が克服すべき欠点としかみなされていない点にあります。そのため、せっかくのドーンの特殊技能がカタルシスに結びつく場面で生かされることがありませんでした。
 同じ理由で成長物語としても難があります。目立たない人間が目立つようになることが成長だとする人間観が浅い。ドーンの才能は最終的に失われてしまいまが、いずれ失ったものを懐かしく思う日がくるはずです。作者はドラえもんの道具で「石ころぼうし」がなぜ根強い人気を誇っているのか考えてみるべきでしょう。