「オニの子・ブン」(山中恒)

 1962年刊。執筆時期は「赤毛のポチ」と重なっているそうで、山中作品の中でも最初期のものだといえます。
 地面の500ユジュン下にあるという地獄で物語ははじまります。まず地獄のオニたちが鉄板でオニのたまごをかえすというシュールな光景が展開されます。このたまごのひとつから生まれたのが主人公のブンでした。ブンには角も牙もなく、まったくオニらしいところがありませんでした。どうすればオニらしくなれるか父親に相談すると、「オニは、ジゴクにすむもので地めんの上のニンゲンとは、はんたいのものだ。」と教えられました。しかしそれでもオニのなんたるかがわからずブンは騒ぎだし、怒った父親に金棒でぶっ飛ばされ、地上に飛び出してしまいます。
 地上に出たブンはニンゲンの子供の皮をかぶってお金持ちの家庭に紛れ込みます。家族ははじめブンを自分の子供だと信じて育てようとしますが、やがてオニだとわかると売り飛ばして見せ物にしようとブンを追いかけ回すことになります。
 オニの世界でもニンゲンの世界でもブンは居場所を見つけられません。異邦人たる子供の孤独と悲哀が感じられます。
 やがてブンはジゴクの正体、オニの本当の役割を知り、自分のすべきことを見つけることになります。山中恒が提示したジゴクという世界の設定は意表をつくものながら説得力があり、完成されたファンタジーになっています。
 また、長新太の描くジゴクの風景が傑作です。長い舌をべろべろ出したオニたちがノンビリくつろいでいるジゴク。こんなユニークな地獄絵図は古今東西どこを探しても他にないでしょう。