「ナシスの塔の物語」(みおちづる)

ナシスの塔の物語 (青春と文学)

ナシスの塔の物語 (青春と文学)

 砂漠の町ナシスに住む少年リュタが主人公。彼は優秀なパティー職人の息子で、跡を継ぐべく父親の元で修行していましたが、いつまでも半人前扱いで重要な仕事はさせてもらえず、不満を募らせていました。そんなとき、町にはぐるま屋のドロスがやってきました。便利なはぐるまは瞬く間に町に広まり、町を豊かにしていきます。リュタもはぐるまの魅力に心を奪われ、パティーを作るはぐるまを開発しようとドロスの協力をあおぎます。
 テーマはテクノロジーと人間です。結果的にはぐるまは町を破滅の危機に追い込みますが、はぐるま自体に罪はありません。問題はドロスが新しい技術を欲望を拡大させる方向にのみ利用した点にあります。
 その問題に、リュタの幼さゆえの暴走を絡めたのがこの作品のうまさです。早く一人前と認められたいがために、深く考えずに新しいものに手を出して失敗してしまう。思春期の課題を的確に表現しています。
 みおちづるのデビュー作にして児童文芸新人賞、椋鳩十賞受賞作。はじめて読んだときはこれが新人の作品とは夢にも思いませんでした。逆にデビュー作でここまで完成されていたら発展の余地がないのではないかと、よけいな心配をしてしまったくらいでした。でも、そんな懸念は第二作「少女海賊ユーリ」によって払拭されることになります。