「名探偵アガサ&オービル ファイル1 火をはく怪物の謎」(ローラ・J・バーンズ/メリンダ・メッツ)

名探偵アガサ&オービル〈ファイル1〉火をはく怪物の謎

名探偵アガサ&オービル〈ファイル1〉火をはく怪物の謎

 元気いっぱいの少女アガサとアスペルガー症候群の少年オービルを主人公とする学園ミステリです。アガサたちはアメフトの応援の余興に、火を噴く怪獣の仕掛け人形をこしらえました。ところが怪獣の起動直後に近くの倉庫が火事を起こし、アガサたちは事故の責任者として大目玉を食らうことになります。しかしオービルは、人形が火を噴いてから倉庫が発火するまでに5,3秒のタイムラグがあることに注目し、潔白を主張しました。ふたりは濡れ衣を晴らすために真犯人を捕まえることを決意します。
 アスペルガー症候群に関しては非常に丁寧に描かれています。オービルのような子供ががどういうことに困難を感じるのかが、親友アガサの目を通してわかりやすく説明されています。理屈では理解していてもたまにアガサがオービルの行動に切れそうになってしまうことも含めて、誠実な描き方がなされていると思います。
 アスペルガー症候群の特性をミステリにうまく取り込んでいることにも注目する必要があります。完全無欠な頭脳を持つはずの名探偵がなぜ最後の最後まで真犯人を指摘しないのかという問題をなかなか巧妙にクリアしています。さらに、動機という概念をうまく理解できないオービルを探偵役にすることで、ミステリのお約束を解体しているのも面白いです。
 アスペルガーの目を通すことによって解体されるのはミステリのお約束だけではありません。さまざまな暗黙の了解、社会のルールも解体されていきます。たとえば学校側に取り調べをされる場面、オービルは嘘をつくことができないので、共犯者の名前を全て明かしてしまいます。このことによってオービルの立場が悪くなるであろうことは容易に予想できますが、よく考えてみれば嘘をつかなかったために非難されるというのもおかしな話です。読者は社会のルールはけっして絶対的なものではないということに気づかされるでしょう。
 難しい題材をきちっとエンタメとして料理している良作です。