- 作者: ローラ・J.バーンズ,メリンダメッツ,森山由海,Laura J. Burns,Melinda Metz,金原瑞人,小林みき
- 出版社/メーカー: 文溪堂
- 発売日: 2007/07
- メディア: 単行本
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アスペルガー症候群に関しては非常に丁寧に描かれています。オービルのような子供ががどういうことに困難を感じるのかが、親友アガサの目を通してわかりやすく説明されています。理屈では理解していてもたまにアガサがオービルの行動に切れそうになってしまうことも含めて、誠実な描き方がなされていると思います。
アスペルガー症候群の特性をミステリにうまく取り込んでいることにも注目する必要があります。完全無欠な頭脳を持つはずの名探偵がなぜ最後の最後まで真犯人を指摘しないのかという問題をなかなか巧妙にクリアしています。さらに、動機という概念をうまく理解できないオービルを探偵役にすることで、ミステリのお約束を解体しているのも面白いです。
アスペルガーの目を通すことによって解体されるのはミステリのお約束だけではありません。さまざまな暗黙の了解、社会のルールも解体されていきます。たとえば学校側に取り調べをされる場面、オービルは嘘をつくことができないので、共犯者の名前を全て明かしてしまいます。このことによってオービルの立場が悪くなるであろうことは容易に予想できますが、よく考えてみれば嘘をつかなかったために非難されるというのもおかしな話です。読者は社会のルールはけっして絶対的なものではないということに気づかされるでしょう。
難しい題材をきちっとエンタメとして料理している良作です。