「魔法少女マリリン 妖精の森へ」(村山早紀)

 「魔法少女マリリン」第四巻。自らの出自の謎を知るためにマリリンがエルフの森に向かうお話です。
 三巻ではあんなに強かった母上がもうかませ犬になってしまう、おそろしいパワーインフレが起こっています。そして道中に正義の味方が通りすがる通りすがる。村山早紀、好き放題やっているように見えます。
 しかし正義の味方の大安売りをすることで彼女がやろうとしているのは、終盤のマリリンの述懐にあるように英雄の否定です。村山作品は主人公がお姫さまだったり正義のなんちゃらがやたら出てきたりするので安直だと思われがちですが、それは大きな間違いです。

 わたしは思う。
 本当は、世界中に、古今東西、英雄なんか一人もいないんじゃないかって。
 いにしえの女王も、そして正義の宝狩り師、虹の翼のトリーシャと呼ばれているトリーシャさんも、正義の医師リュシエンさんも、みんな強いばかりの人じゃなかった。無敵のヒーローなんかじゃなかった。
 迷い、苦しみ、自分はなんなのか、なんのために生きていくのか考え続けていた。いくつものいくつもの重大な選択をして、その選択の中で、自分の人生を形作っていった。(中略)
 英雄は、いないんだ。
 人は誰もみなきっと、自分が選ぶ道を、迷いながら進んでいる。
(p303−304)