「きつねのライネケ」(ゲーテ)

きつねのライネケ (岩波少年文庫)

きつねのライネケ (岩波少年文庫)

 内田百間訳「狐の裁判」として有名な作品が、上田真而子の新訳で出ました。明治17年に井上勤によって初めて日本に紹介されたゲーテ作品としても有名です。
 「この本のお話には,教訓はなんにも含まれておりませんから、皆さんは安心して読んでください」という内田百間の序文が全てを語っています。
 性悪な狐ライネケの悪行にに困り果てた動物たちは、百獣の王ライオンのノーベルにライネケを裁くように訴えます。王はライネケを呼び出すため使者を派遣しますが、ライネケは使者をだまして半殺しの目にあわせます。ようやく王の前に出頭し絞首刑の判決を受けてからも、舌先三寸で王をだまくらかし、無罪を勝ち取るどころか王に「片腕」と呼ばれるまでに出世してしまいます。
 鳥が囀るように嘘をつき悪行の限りを尽くすライネケが報いを受けることなく終わってしまう。ひどい話としかいいようがありませんが、悪いものがのさばる人間社会の本質をついているので、不思議とおもしろく感じられます。上田真而子もあとがきでこのように述懐しています。

 最後に、正直に告白しますと、この『狐のライネケ』、私はまず編集しながら翻訳し、それを原書とつきあわせてくりかえし推敲しているうちに、おもしろくてたまらなくなりました。そして、はじめは「これはあくどい、いくらなんでもひどすぎる」と思って端折っていたところを、また復活させたりしました。その私の気持ちはなんだったのかなと、いま胸に手をおいて考えています。