「アイヴォリー」(竹下文子)

アイヴォリー

アイヴォリー

 1994年に理論社から刊行された「アイヴォリー」がブッキングで復刊されました。まずは本の美しさを称えるべきでしょう。坂田靖子のイラストを最大限映えさせるために計算されたデザイン。これはジャケ買い確定です。
 墓場が舞台で登場人物はほとんど幽霊という思い切った設定の作品です。主人公は幽霊になりたての少女アイヴォリー・ホワイト。生きている時は塚原美月という名前でしたが、死んでからアイヴォリー・ホワイトになり、今の名前の方がしっくり似合うと感じるようになりました。
 なにしろ死んでいるのだから、物語開始時からすべては終わっていて、停滞しています。作品世界の空気は静謐で、少女小説文体のアイヴォリーの語りにも穏やかな迫力が感じられます。

 もしかしたら、わたしは、美月という貝殻に間違って閉じこめられていたアイヴォリー、だったのかもしれない。生きているあいだじゅう、わたしは、自分が自分にしっくり似合わない、という感じを持ちつづけていた。どこにいても、何をしても落ちつかない。何か間違っている。でも何が?
 わたしは感傷的になってみたり、攻撃的になってみたり、うんと皮肉屋のふりをしたりしてみたけど、答えは見つからなかったのだ。十二月の寒い朝、学校に近い交差点で、左折してきたバイクが、わたしを歩道の植え込みにはねとばした、そのときまで。
 あっさりと、ほんとに信じられないくらいあっさりと、塚原美月、みっちゃん、ミッキー、間違った貝殻は壊れてしまった。血なんかほとんど流れなかった。貝殻だもの。(p6-7)

 最初から終わっているからこそ、動かないはずの物語が動き出した時の感動は増幅されます。切なく美しくそして熱いラストシーンは必見です。