「午前2時に何かがくる」(佐野美津男)

「午前2時に何かがくる」(佐野美津男

 1974年刊。
 事故にあい手足を失い亡くなった警察署長が幽霊になって手足を奪いにやってくる。ユミは同級生の山田くんからこんな不気味な話を聞かされました。この話を聞いた人間は同じ話を三人の人間に聞かせ、さらに夜中にやってくる署長の幽霊と決められたやりとりをしないと署長に取り殺されてしまうのだといいます。翌日山田くんは学校に現れませんでした。ユミは山田くんの家にいってみますが、家はもぬけのからになっていました。協力者を得て調査を進めるうちに、事件にある精神病院が関わっていることが明らかになってきます。
 三人の犠牲者を選ばなくてはならなくなったユミが、とりあえず自分の嫌いな人間を選ぼうと思案するあたりが合理的でおそろしいです。しかし物語が進むに従って冒頭の呪いの話は忘れ去られ、事件の焦点はどんどんずらされていきます。社会に渦巻く問題の複雑さと不気味さを垣間見させるこの物語は、あとがきにあるように「現代の怪談」と呼ぶのがふさわしいでしょう。世界の不条理と孤独に戦う「白い家の少女」の姿は強烈な印象を残します