「虹色ほたる 永遠の夏休み」(川口雅幸)

虹色ほたる―永遠の夏休み

虹色ほたる―永遠の夏休み

 売れてるらしいですね。感動本らしいですね。ダムに沈む村で最後の夏祭りがあって、タイムスリップして、人が死んだり生き返ったりすれば感動する人はするのでしょう。アルファポリスの本なので作品の質についてはとやかく言いません。ただひとつだけ気になったことがあるので書き留めておきます。ネタバレには配慮しません。
 ヒロインの少女は兄とともに事故に遭っており、兄は死亡し、少女は意識不明の重体に陥っていました。ご都合主義ファンタジー設定で少女には兄の元に行くか現実に戻るか選択する機会を与えられていました。
 さて、それを知った主人公の少年の行動が異様でした。彼は少女が現実に戻ることを選択したにもかかわらず、意識不明で回復する見込みがない状態では生きている意味がないからと、兄の元に行くように説得したのです。つまり、生きたいと願う人間に対して死ねと言い放ったわけです。それまで主人公はこんな発言をするような異常な人間として描かれていなかったので唐突に感じてしまいました。後に彼の考えは修正されるとはいえ、こんな極端な考えを持った人間に共感の余地はありません。
 もちろん小説の主人公が倫理的に許されない考え方を持つこと自体は結構なことです。「高瀬舟」を例に出すまでもなく、慈悲殺とか尊厳死とか呼ばれるたぐいの殺人は文学的テーマとしては興味深いです。しかもこの作品の場合、意識不明の人間が明確に生きたいと意思表示するという通常ではありえない状況を設定した上で、それでもなお殺そうというのだから非常に極端です。掘り下げていけばおもしろくなりそうです。しかしこの作品での取り上げ方はあまりに唐突で軽はずみすぎます。作者が問題の重大さに気づいていない疑いさえもたれてしまいます。