「はじまりのことば」(可能涼介)

はじまりのことば

はじまりのことば

「前に君は言っていたよな。例えば、青という色にしても、人によっては、まったく違う色を、見ているのかもしれないって」
「そうさ。オレにとっての青とは、君にとっての赤かもしれない。確かめようは、ないんだぜ」(p127)

 2001年刊行。理論社のYA初期の傑作のひとつです。作者の本業は演劇で、現時点では小説はこの一作のみです。
 詩人志望の小学生唯一(ただいち)の物語です。まだなにもはじまっていない現実となにかがはじまりそうな予感のあわいをタイトルが暗示しているのでしょう。特に筋らしい筋はなく、唯一が音楽喫茶と算数専門の塾と「かまど」を往復し、様々な人々と交流するさまが描かれています。