「鳥右ェ門諸国をめぐる」(新美南吉)

鳥右ェ門諸国をめぐる (フォア文庫)

鳥右ェ門諸国をめぐる (フォア文庫)

 フォア文庫新美南吉作品集です。
 表題作「鳥右ェ門諸国をめぐる」は犬追物が好きな武士鳥右ェ門の物語です。犬を射殺す残酷な遊びに興じる鳥右ェ門をしもべの平次は冷たい目で見つめていました。鳥右ェ門はその目つきに腹を立て、平次の目を射抜いてしまいます。
 その後鳥右ェ門は「人のためになることをしてこそ、えらいといわれるもんさ」という平次の言葉に感化され、思いがけない成り行きで貧乏村の寺に坊さんとして迎えられます。新しい生活になじんだ頃、村に釣り鐘がほしいという村人の希望を受けて、鳥右ェ門は喜捨を求めて旅に出ることになります。
 8年もの歳月をかけて資金を集め村に戻ろうという時に、彼ははじめに立ち寄って親切にされた川名という村が災害にあって困窮していることを知ります。ここで鳥右ェ門は選択を誤ってしまいました。川名を見捨て、集めた金を釣り鐘を作るために使ってしまったのです。ここでまたも盲目になった平次が鳥右ェ門の前に現れました。鳥右ェ門は発狂し、空飛ぶ鐘の幻聴に追い立てられながら諸国を駆け回ることになります。
 両目をつぶしても不気味につきまとってくる平次は鳥右ェ門の良心の目なのか、それとも神の目なのか。人が正しく生きることの難しさを感じさせる、迫力のある作品です。