「サンネンイチゴ」(笹生陽子)

サンネンイチゴ

サンネンイチゴ

 2004年刊。現時点で笹生陽子最後の作品です。2004年には3冊も新刊を出したので、ここで一気にブレイクかと思われたのですが、気がつけばもう3年も沈黙しています。そろそろ新作を拝ませてもらいたいです。
 「サンネンイチゴ」は文芸部所属のおとなしい女の子が素行が悪いとされているクラスメイトと仲良くなり、いつの間にか不良グループの抗争に巻き込まれていく物語です。
 この作品はなんといっても主人公の語りがおもしろい。彼女は思うところがあっても実際に口に出すことはあまりないのですが、地の文ではつっこみまくり、おどけまくりでギャップが楽しいです。

自慢じゃないけど、あたしは友だちができにくい体質なのだ。まぁいてみれば、究極の内弁慶型ひっこみ思案。気軽に話せる友人の数が平均値をかなり下回る。(p41)

 と心の中でおどけつつ、忘れ物を借りる友だちがいないことを深刻に悩んでいるところなど最高です。学校で目立たない子の心情に丁寧に寄り添っています。
 ただ、読み直してみると着地点があまりに穏当なのが気になりました。ラストの「いま、あたしの胸はたくさんの思いであふれかえってる。仲間に対する思いとか、家族に対する思いとか、いままで見向きもしなかった社会に対する思いとか。」といったあたりはきれいすぎて上滑りしています。笹生陽子はもうちょっとはじけてくれてもいいと思います。
 それにしても新作はいつになったらでるのでしょうか。