「コウヤの伝説③ みちびきの玉」(時海結以)

コウヤの伝説〈3〉みちびきの玉 (フォア文庫)

コウヤの伝説〈3〉みちびきの玉 (フォア文庫)

「この刀が、かってにぼくをまもるよ。ぼくではなく、北条のあとつぎ、北条一族の血すじをね。だからぼくは、ほんとうはひとりでも、だいじょうぶなんだ」
 鬼丸をかかえたまま、きじゅ丸はためいきをついた。
「この布をほどけば、ぼくをねらうやつを、鬼丸がかってに斬ってくれる。北条のあとつぎなら、それが正しいことだと思わなくちゃいけない。でも、ぼくは、それが正しいことだとかわからなくて、こわくて……布をほどけない。だから、みさ可にまもってもらわないとこまるし、だれかが布をほどかないように、ずっとこうして、身につけてないとならないし」(p77)

 エルリックストームブリンガーを例に出すまでもなく、強大な力を持つ魔剣に振り回される主人公というテーマはファンタジーの類型のひとつになっています。北条家の跡継ぎの証である剣鬼丸はどんな敵でも撃退できる力を持っていますが、きじゅ丸はそれを行使することを嫌い、侍の娘であるみさ可に身を守ってもらっています。みようによってはとんでもない軟弱なヒーロ−にみえてしまいますが、(そのときは事実上鎌倉幕府は崩壊していたとはいえ)幕府の指導者になる運命を持ったきじゅ丸と、一兵卒にすぎないみさ可の行使する暴力ではレベルが全く違うことを見逃してはなりません。きじゅ丸は大きな暴力を暴走させることをおそれるあまり、当面小さな暴力に頼っていると理解するべきでしょう。軍事的な指導者としてこの暴力とどう向き合っていくかがきじゅ丸の大きな課題になってくるはずです。