「ゴールライン」(秋木真)

ゴールライン (新・わくわく読み物コレクション)

ゴールライン (新・わくわく読み物コレクション)

 秋木真のデビュー作です。彼の作品はこれ以前に児童文芸に掲載された短編と地方の文芸誌に掲載された短編の2作を読んでいて、ひそかに注目していました。どちらの作品も男子を主役とした片思い小説です。ヒロインはあまり他人にはいえない特性を持っていて、主人公は自分だけがそれを知っていてヒロインの保護者役を引き受ける特権を持っているという構造の作品でした。ただし、物語終了時点になっても主人公はヒロインからまったく男として見られることはなく、甘さと苦さがいい具合に同居した作品になっていました。男子主役の恋愛ものは児童文学界ではほとんどフロンティアなので、秋木真にはぜひこの分野を開拓してもらいたいと思います。
 初単行本の「ゴールライン」は、気まぐれな姉の命令で陸上クラブに入った少年が自分が走る意味を見出してていく物語です。弟を好きなようにこき使う姉貴をはじめとして、アクの強いキャラクターがそろっています。主人公はクラス委員をつとめていて何事もそつなくこなす器用な子ですが、学校行事のクラス対抗リレーを冷ややかに見つめるような一面も持っていて、なかなか侮りがたいキャラクターでした。
 スポーツものとしては基本に忠実で非常に安定した作品でした。次はどんな作品を見せてくれるのか楽しみに待ちたいです。