「筆箱の中の暗闇」(那須正幹)

筆箱の中の暗闇 (偕成社ワンダーランド)

筆箱の中の暗闇 (偕成社ワンダーランド)

 ある子供が不登校になりました。その理由は、筆箱の中に真っ暗な空間が広がっているのを見てしまったから。子供は筆箱を川に投げ捨て新しい筆箱を買ってもらいますが、学校で開いてみるとやはり筆箱の中には暗闇が広がっていました。これはこわい。そりゃ不登校にもなりますって。
 ショートショート30作が収められた作品集です。初期の「少年のブルース」に比べると少し見劣りはしますが、それでも質の高い作品がたくさんありました。
 孤独な少年の末路をモクレンの花の色彩をつかって幻想的に描いた「そしてだれもいなくなった」は美しくも悲しい秀作です。
 軍靴の音が聞こえるタイプの「シンボルカラー・イン・ジャパン」はおそらく国旗国歌法の成立前後に書かれた作品なのでしょう。人気ロックバンドが愛用していたコスチュームの色、ガイヤカラーと名付けられた「やや赤っぽい褐色」が日本中で大流行します。すると内閣は、このガイヤカラーを日本のシンボルカラー、国民色にしようという法案を提出します。法案は通過し、やがて文部省は公立学校の制服の色は国民色にするのが望ましいという通達を出します。そのころ陸上自衛隊の制服もガイヤカラーに衣替えされました。そう、やや赤っぽい褐色のガイヤカラーとは、かつてカーキ色と呼ばれていた軍服の色だったのです。今の日本の状況を考えるとまったく笑えません。
 「水たまり水泳法」は、泳ぎの苦手な子が巨大な水たまりで練習するというアイディアが秀逸。
 「ニワトリの幸福」も「シンボルカラー・イン・ジャパン」と同様に政治色の濃い作品です。野原で自由に暮らしていたニワトリの物語。彼らは食べ物をくれ家まで建ててくれた人間をすっかり信用してしまい、タマゴが奪われ仲間が連れ去られるようになっても文句ひとついわず状況を受け入れるようになってしまいます。管理されることになれてしまった人間の愚かしさが皮肉たっぷりに描かれています。