「ズッコケ三人組のバック・トゥ・ザ・フューチャー」(那須正幹)

 ハカセの発案で三人組は自分史を制作することになります。それぞれの記憶を出し合ってみると、三人組が仲良くなった時期やニックネームの由来に食い違いが出てきました。そんな中、ハチベエが幼少時代に一緒にままごとをして遊んでいた一学年上の少女の存在を思い出しますが、その少女の素性はなかなか明らかになりませんでした。やがて彼女がハカセの母親の交通事故に関与していた疑いが出てきて……。
 自分史づくりなんて先のない老人のやること、未来のある若者は過去を振り返っている暇なんかないはずです。それでもやはり人間12年も生きていればいろいろあるもので、つついてみればそれなりにおもしろいことは出てきそうです。しかし、過去の記憶なんてものは常に改変され捏造されるもの、なかなか真相にたどり着けるものではありません*1。事実はある程度明らかにすることはできても、その時の心情となると藪の中です。
 精力的に事実関係を探るハカセやモーちゃんに対し、、当事者であるハチベエの方の心理描写は抑えられていて、彼にしては珍しくシリアスな演技を見せてくれます。しかし真相が明らかになった後、彼は全く過去にこだわることをせず、少女を他の女子と同じように恋人候補としてのみ見るようになります。過去に過度に拘泥しない彼の態度はひとつの見識かもしれません。しかしわれわれはすでに「ズッコケ中年三人組」でなれのはてを知ってしまっているので、あれの少年時代がこれだと思うとちょっと引いてしまいます。

*1:ちなみに那須正幹は過去の改変テーマで「ガラスのライオン」という傑作短編もものしています。